10年ほど前、話題になった「他人を見下す若者たち」(講談社現代新書)という本があります。副題は「自分以外はバカの時代」と書かれていて、著者は速水敏彦、名古屋大学教育心理学教授(当時)。10年前に書かれた本ではありますけれども、書かれていることは、ますます現代的になっているように思います。まず、その本の一部を紹介します。
「現代人は自分の体面を保つために、周囲の見知らぬ他者の能力や実力を、いとも簡単に否定する。世間の連中はつまらない奴らだ、とるに足らぬ奴らだという感覚を、いつのまにか自分の身に染み込ませているように思われる。 … このように若者を中心として、現代人の多くが他者を否定したり軽視することで無意識的に自分の価値や能力を保持したり、高めようとしている・・・これを仮想的有能感と呼ぶ。」
バーチャルリアリティーという英語を仮想現実と訳します。実際には、ない、けれども、あたかもあるかのように思い込むことです。「仮想的有能感」とは、自分には能力があると感じる。でもそれは、本当に能力があるのではなくて、他の人を無視したり、否定したりすることによって、自分で自分を高く思わせることです。いわば錯覚なので、現実には、人と人との関係がうまくいかなくなります。人には迷惑をかけ、自分自身もやがて現実に直面して悲哀を味わうことになります。
だれでも「仮想的有能感」から解放される道が必要です。他人や自分自身による解放は不可能です。残念ながら、だれもが多かれ少なかれ偏見と先入観に囚われているからです。絶対に間違わない、しかも愛そのものである神の前で、人は本来の自分を見いだすことができると聖書は教えています。「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している」(イザヤ書43章4節)と言ってくださる神様を知ることによって、本当の自分を見いだすことができるのです。
(2017年 通巻295号)
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